松四雄騎(京都大学防災研究所 地盤災害研究部門 教授)
京都大学防災研究所教授である松四雄騎先生をお招きして、「水文地形モデリングに基づく斜面災害のハザード評価」という題目でご講演頂いた。以下その概要を示す。
(1)人新世の地形災害と課題
- 豪雨による近年の地形災害は、土砂の供給域と集積域双方での環境改変と、人為的な気候変調をそれぞれ素因と誘因の一部として発生し、都市周縁域での地形災害リスクは上昇・増大傾向にある。
- 人的被害の軽減には情報に基づくソフト対策を併用した施策が不可欠であるが、正常性バイアスによりハザードを我が事として的確に捉えることは難しい。
→住民が適切に判断できるハザードをリアルに可視化し、認知を共有できるリスクコミュニケーションツールが必要
(2)表層崩壊予測の高度化へのアプローチ
- 表層崩壊予測の高度化には、風化帯発達(素因)と水循環(誘因),そして森林生態系の相互作用が創り出す地表近傍境界域の水文地形学的モデリングが不可欠。
風化帯発達(素因)モデル
- 風化帯構造は、航空レーザ測量(細密地形情報)と宇宙線生成核種(土層生成速度)、現場踏査でモデル化。
水循環(誘因)・森林モデル
- 土層中の間隙水圧予測は水文カップリングモデルで、植物根系効果は帰納的定式化による森林機能モデリングで表現。
斜面ハザードの可視化
- 斜面ハザードの時空間変化で実際の崩壊事例を再現可能。ただし、過大評価している箇所も多く見受けられる。
- 決定論的モデルに基づくアンサンブル解析により,任意の流域における土砂・流木生産量の確率論的評価が可能。
(3)実務展開と社会実装の見通し
- 短期的には土砂災害ハザード予測に、中・長期的には流域砂防計画の策定や土砂災害のイベントアトリビューション,土砂動態の変容評価への応用が考えられる。
- 行政担当者あるいは地域住民とのリスクコミュニケーションツールとしても活用可能。